非線形超音波法

 線形超音波法とは,重ね合わせの原理が成り立つ,即ち線形の応力ひずみ関係により近似できる伝播媒体に対して,各種線形パラメータ(欠陥エコー,音速,減衰スペクトル,散乱波等)を測定する手法である.

 超音波を用いた非破壊検査で最も単純な手法は,欠陥からのエコーを検出し,その伝播時間から欠陥位置を,その振幅から欠陥形状の特定を行うことである.

 音速や減衰測定は,欠陥検出だけではなく,材料特性評価に非常に重要な役割を果たしている.

 超音波の音速は材料の弾性特性および密度に依存するため,音速測定により弾性特性の評価が可能である.これにより,異方性の評価,3次弾性定数の測定,残留応力の測定やき裂やボイドなどを回り込むことによる音速低下を利用した損傷評価も報告されている.

 減衰係数は,損傷の評価,エポキシ樹脂の吸湿の測定などにおいて減衰係数が数十%変化するなどの有用性が示されており,音速と減衰を組み合わせた損傷評価も行われている.

 しかしながら,音速・減衰による欠陥検出は,超音波伝播域の欠陥の体積割合・散乱断面積に依存する計測である.したがって,開口き裂・空孔など体積を持つ欠陥の検出に対して有効であるが,初期段階の疲労き裂,閉じたき裂,粒界クリープボイドあるいは微視剥離のように,ほとんど閉じた欠陥の検出は困難である

 非線形超音波法は,重ね合わせの原理がなりたたない,即ち非線形の応力ひずみ関係を持つ伝播媒体に対し,その非線形性を測定する手法である. 非線形性の原因は,金属材料の場合,原子間力ポテンシャルの非調和性,転位,微小き裂(閉じたき裂),微視剥離,不完全接合部,接触界面や析出相などである. 非線形超音波法とは,超音波を用いてこれらの材料中の非線形性を測定することにより,それらの検出・評価を行う.